「総合格闘技興行におけるコミッション、協会のあり方」本編vol.1

ゴング格闘技11月号の「MMA“越境”座談会」を読んだ事をきっかけに、今まで考えていたことをまとめて書こうと思っていたのですが、分量が余りに長くなりそうなので先延ばしにしているうちに、かなり時間がたってしまいました。その間にもテーマに関連した思い付きも増え、一度に書ききれないので、思い切ってシリーズ(おおげさ)にすることにしました。本筋以外の思い付きもかなり多いので、「番外編」も増えそうです。


今日の日記も、本題には入らず、「MMA“越境”座談会(熊久保英幸=文)」の記事中で、気になった単語の使い方について書きます。
この記事では冒頭で、3“団体”の代表が語り合った、と銘打たれていますが、佐伯繁氏はDEEP事務局代表として、坂本靖氏は株式会社パンクラス代表として、久保豊喜氏は株式会社ジーシーエムコミュニケーション代表として、それぞれの“興行”の代表として出席しています。この記事に限らず、ある興行を主戦場とする選手同士の試合を、「団体対抗戦」と表現するなど、興行を団体と言い換える格闘技マスコミ・格闘技関係者は本当に多いです。ファンならいざ知らず、職業にしている人たちがこういう表現を使うと、本当にこの十数年間の格闘技の流れを見てきたのかと疑問に思います。以下に書くことはプロレスから総合格闘技への変遷をリアルタイムで見ていない自分ですら、わかっていることです。


日本の総合格闘技界にPRIDE以前以後というものがあるとしたら、その特徴として運営形態が“団体”から“興行”に変わった事が必ず挙げられるはずです。
新日本プロレス旧UWF新生UWF、藤原組、UWFインターナショナル、リングス、パンクラス、キングダムという、プロレスから総合格闘技に至る過程で生まれた“プロレス団体(格闘技団体)”には「所属選手」がいました。各団体(=運営会社)は大会開催という業務と同時に、道場・ジムの運営(選手の育成)という業務も行っていました。また、選手は社員でもあったわけです。
対してPRIDEは団体ではなく興行・イベントでした。「PRIDEは場である」と言っていたような気もします。PRIDEの運営会社であったDSEは大会を開催するだけの組織となったわけです。選手育成は各道場・ジム(高田道場、吉田道場等)、そして、所属選手がいなくなったことで、興行会社と選手の間に立ちマネジメントする組織(同じく高田道場、株式会社ジェイロック等)も生まれました。そして、PRIDEが場であったことで、さまざまな団体、道場、ジムからの選手が参戦し、PRIDEの隆盛を築く一因になったわけです(後年は、「○○はPRIDE系(あるいはK-1系)だから××に出場できない」と言うような、「所属選手」扱いによる「団体化」のような事も起きましたが、かといって、実際に運営会社に所属していたわけではありません)。
そしてPRIDE以降に生まれたDREAM、SRC(戦極)、HERO'S、DEEP、ZSTCAGE FORCEや、その他生まれては消えた各総合格闘技大会もそのほとんどが「場」としての興行だったわけです。(CAGE FORCE和術慧舟會自主興行的側面もありますが、久保氏自身がメジャー興行の「団体化」へのあてつけもあって、「誰でも上がれる舞台」と言っているので加えています)


以上のことは、自分が考え付いたわけでは当然なく、格闘技雑誌等では良く書かれていたことです。“前提”といって良い事項だと思います。このような、経緯を認識していれば、現時点では、プロレスと格闘技を隔てる大きな要素のひとつとなっているわけですから、“団体”と“興行”を混同して使うようなことはないはずです、特に、その変遷を間近で見てきた記者にとっては(興行対抗戦より団体対抗戦のほうが響きが格好良いから使いたくなる気持ちはわかります、意味は違いますが、興行戦争と語感的にも似通ってしまいますし)。


※ ここでは、クラブ・オーナー(クラブ=道場・ジム)、マネージャー、プロモーター、ボクサーがそれぞれライセンスで明確に分業化されているプロボクシングを参考にしている修斗は省略しています。総合格闘技界では唯一無二の運営形態のため。


もうひとつ、書くべきか迷ったのですが、同じ記事で気になる使われ方をしているのが「プロモーション」と言う単語です。この単語も、“団体”と同じく格闘技マスコミ・格闘技関係者の中でよく使われているようです。文脈を見ると以下の意味で使用していることが推測できます。

1.興行主個人を指す単語がプロモーターとしたら、組織を指す単語として。つまり格闘技興行主催会社等を指す単語として。
2.興行主(プロモーター)がプロモートするものを指す単語として。つまり興行・イベント・大会を指す単語として。

英英辞書でも英和辞書でもいいので、辞書を引いていただけるとわかると思うのですが、そういう使用方法はありません。promoterという単語は個人にも組織にも使えますし、2については単に興行やイベントといえば言いだけです。
と、ここまで一度、頭の中で考えていて、先日気付いたのですが、オスカー・デ・ラ・ホーヤが創立したプロボクシング興行主催会社「ゴールデンボーイ・プロモーションズ」はプロモーションという単語を使っているわけで、1の意味は慣用的に使われているのかもしれません。また、「MMA promotion」でgoogle検索しても、結構1や2の使い方をしている英語ページがヒットします。
というわけで、辞書上の意味にとらわれている自分のほうが間違っているのかもしれません(詳しい方、教えて頂きたいです)。


参考
http://jbgl.jp/jbc_rule.html
http://en.wikipedia.org/wiki/Promoter_(entertainment)
http://en.wikipedia.org/wiki/Golden_Boy_Promotions